昔むかしの花の種

モンモンがモブレディの話を聞くソロバルです。

「あの人ね、私の父に似ているの」
 そう楽しそうに微笑む老女の視線の先にはバルバトスがいた。
 話しかけられたソロモンは、町の瓦礫撤去の作業の手を止める。彼女の視線に合わせてバルバトスを見た。バルバトスはいつものように20代くらいの女性に声を掛けていたため、ウェパルに何か小言を食らっていた。
「へぇ、綺麗な人だったんですね」
「そうなの! と言っても、会ったことはないのだけれど」
 楽しそうに話す彼女の話を聞くには、彼女の父はバルバトスと同じく吟遊詩人で、とびきり格好の良い人だったそうだ。母がいつも言っていたから間違いないと、彼女は付け加えている。そんな母と父はすぐに惹かれ合い、そして、彼女が生まれたそうだ。
「私ができたと母が知ったのは、父と離れてから随分とあとで。だからね、父は私のことを知らないの。それが少し残念だわ」
 そう言うと彼女は遠くを見た。その脳裏に浮かぶ光景はソロモンにはわからない。何を映し、重ね、紡いでいるのかは、彼女にしかわからないのだ。
 しばらくそうしていると、彼女は父から聞いたと母に伝えられたという歌を歌い始めた。歌詞が思い出せないのか、所々曖昧だが、曲は伝わってくる。リズムは穏やかで、メロディはどこかもの寂しげだった。
 そうしていると、彼女の息子だと言う人物がやってきて、彼女の手を引いた。
「あら嫌だ。話し込んじゃった。バイバイ、お兄さん」
 彼女に手を振られ、ソロモンも振り返す。
 その後、ソロモンは気になることがあり、バルバトスを訪ねた。
「なあ、バルバトス、ちょっといいか?」
「なんだい?」
 道具の片付けを終わらせたバルバトスにソロモンは話しかけた。寝床を貸してくれる家へ向かいながらソロモンは話し始める。
「さっき聞かせてもらった歌が気になってさ。バルバトスなら知ってるかと思って」
「そういうことならお安い御用だ。どんな歌なんだい?」
 ソロモンは老女から聞いた歌を歌う。バルバトスは何度か頷いたあと、ふわりと微笑んだ。
「それなら知っているよ。昔に流行った歌だね」
 そう言うと、バルバトスは歌い始めた。歌は老女から教えてもらったときよりも鮮やかに映り、例え離れていても心は側にいる、と切々と唱えた歌詞が刻まれていく。
 歌い終わったのち、ソロモンはどうしても気になっていたことを訊いた。
「バルバトスはそれ、誰かに歌ったことある?」
「…………歌ったことは何度も、贈ったことは一度だけ」
「そうか、変なこと聞いてごめん」
「いや、構わないさ」
 ソロモンの心の底から、「もし贈られるなら永く側にいられることを喜ぶ歌が良い」という思いが浮かび、そっと蓋を閉じた。