ストッパーは外せない

短い雰囲気SS

恋をしたのだ、と気づいたのは、彼が甘ったるい言葉を酒場のウェイトレスにかけていたところを見たことがきっかけだった。一言二言声を交わしていただけだったから、挨拶以上の意味を持たないことはわかる。

そして、すぐに俺は心に蓋を閉じる。今はそれどころではない。ヴァイガルトを護らなければならない。俺の役目は現状、俺にしかできないのだから。

それにも関わらず

「ソロモン、君、誰かに恋してるだろ?」
「いきなりなんだよ。バルバトスはそういうの好きだな……」
「いやあ、恋はいいものだよ。誰かを好きな間はそれだけで幸せになれるし、失恋もまた、辛いけどいい経験になる」
「そんなこと言われても、心当たりないからな……」
「正直な話をすると、恋にうつつを抜かしてもらったら困る。恋は簡単に人を狂わしてしまうからね。でも、それは世界の都合だ。君の都合じゃない」
「バルバトス……」
「ヴィータの時間は短い。キミが道を外さないよう、俺もサポートするよ。だから、キミの人生を捨てないでくれ。これは、お節介な保護者からのお願いさ」

まさに恋している相手からそれを言われた。

目を閉じて心を落ち着かせる。まぶたの裏にはグロル村での日々が映し出される。

目を開き、バルバトスを見る。心配そうに眉尻が下げられていた。

「ありがとう、バルバトス。もし、そのときは頼りにさせてもらうよ」
「……そうか。任せてくれ」

バルバトスを見ていなくて、俺は視線を外した。おそらく、言いたいことは沢山あるんだろうが、バルバトスは黙っていてくれている。

いいんだ。そう、これで。