立体裁縫中

立体裁縫の前の話です。

一部のメギドの体が、遺物の暴発で変わってから早3日。被害者の1人であるバルバトスは、女性の体に苦労していた。視線が下がって周りの状況を判断し辛かったり、筋力が落ちて力仕事に苦労したり、などなど。その他にも、不逞の輩に絡まれやすくなったが、これは仲間が護ってくれるので問題ない。

目下の悩みは平均より大きめの自分の胸だった。大きく動くと肉が離れるような痛みが起き、じっとしていても肩がこる。あの娘は大変だったのだなぁ、と過去に知り合った女性に同情した。

そのため、バルバトスはつい無意識のうちに愚痴をこぼしていた。

「痛いなぁ……」
「どうしたんだ?」

それをすぐに拾ったソロモンが心配そうに聞いてくる。

「喋っちゃってたか。胸が揺れて結構痛くてさ。女性は毎日これだから大変だよね」

それを聞いてソロモンは困った顔をする。それもそうだろう。解決方法がわからないのだから。

その様子を見つけたマルコシアスが、話に入ってくる。それを受けて、ソロモンの表情は安心で緩んだ。

「それなら、ブラジャーを着けるといいですよ。全然違います」
「でも、一時的なものだから、買うのは勿体なくないかい?」

若いソロモンの前でこの会話を続けるのはどうかとバルバトスは一瞬考えるが、数々の女性服を作っている彼ならば耐性はあるだろうと考え、続ける。

「そうなんですよね。では、サラシで固定しますか? 呼吸が苦しくなるのであまり薦められませんが」
「うーん、それなら他のことにも使えそうだから、いいかもね」
「だったら俺が作るよ」

ソロモンが唐突に言う。

バルバトスとマルコシアスは言葉を無くしてソロモンを見た。まさかソロモンからそんな言葉を聞くとは思わない。

「マルコシアスとシャックスが水着で着てたみたいなヤツだろ? だったら、たぶん、作れると思う。余り布を使えば勿体無くないだろうし」

ソロモンの視線は右上に行っていた。早速、在庫を思い出しながら、簡単な型でも想像しているのだろう。

バルバトスは困ってマルコシアスと視線を交わしたが、良い返答は思い浮かばなかった。

「作れそうなんですか?」

困惑しながらマルコシアスが言う。

「うん。何とかなると思う」

ソロモンは邪心のない瞳でバルバトスを見た。

「痛いんだろ?  このあと寝る前に作っちゃうよ」
「えっ、あ、うん。よろしく」

バルバトスは、ソロモンの部屋で作ることを約束させ、材料を取りに行ったソロモンから部屋の鍵を受け取った。

「個室って、何を考えているんですか」

冷ややかな声でマルコシアスが言う。

「あの部屋なら不意打ちで誰かに見られることはないだろ? ブラジャーを作ってるところを見られるのは、さすがに可哀想だから」

相手が相手ならば、絶対に面白おかしくからかわれるだろう。その手の恥ずかしさを、特にあのくらいの年齢の子には体験させたくない。

頼まれたら、胸や尻の一つや二つ、揉ませてやろうと考えながら、バルバトスはソロモンの部屋に向かった。

寸法を測るだろうと、薄いシャツ1枚で待っていたところ、程なくしてソロモンが材料を抱えて帰ってきた。ソロモンが布と道具をテーブルの上に置いている間に、バルバトスは部屋の鍵をかけた。これで、突然開けるような不躾な輩を閉め出せる。

「バルバトス、ここに座ってくれるか」
「わかったよ」

ソロモンが移動させた椅子に座る。背もたれの無い椅子だった。

「ちょっと触るよ」

そう言うと、ソロモンはバルバトスの胸の下辺りの脇腹に手を当て、服を絞り込んだ。真剣な顔でじっと観察している。布の配分を考えているのだろう。

採寸を正確にしやすくするために黒のインナーも脱いでいるため、乳首がくっきり浮いているのだが、ソロモンは特に気にしている様子は無い。年頃の少年がこれで大丈夫かと、心配になってくる。

「ううん……、足りそうだな。採寸するから、腕を少し上げていてくれ」
「了解」

ソロモンはアンダーとトップの他、肩幅など、考えつく限りの場所の寸法を測ってはメモしている。

「じゃあ、簡単なものを最初に作るから待っててくれ」

ソロモンは慣れた手つきで布を縫い合わせ始めた。仮止めの段階ではあるが、みるみるうちに形になっていく。紐が全体的に太めなのは、揺れないようにさることを目的としているからであろうか。

出来上がった暫定ブラジャーをソロモンはバルバトスに渡した。

「試しに着てみてくれるか? 服は預かるから」
「あ、ああ」

あまりの自然さに戸惑いつつ、バルバトスは指示されるままに服を脱いでソロモンにシャツを渡す。上半身裸になったところで、暫定ブラジャーを着けようとした。ところが、三角形の布2つと、紐4本で構成されたそれは、着方がイマイチわからなかった。

「わからなかったか? こう着けるんだ」

バルバトスのシャツをハンガーにかけて吊るし終わったソロモンは、バルバトスの後ろから暫定ブラジャーを装着させていく。

まず、首の裏へ回した紐を首の裏で結んだ。次に、反対側に、一直線になるよう付けられた紐を布ごと胸の下へ移動させ、先を背中側に回して結ぶ。暫定ブラジャーと下乳の間に手を差し入れ、簡単に形を整えて終了のようだった。

「うーん、やっぱり余ってるな……」

肩越しにソロモンが覗き込んでくる。暫定ブラジャーはどこもかしこも緩く、目的を果たせているとは言いづらかったが、ここまでじっと見られると、流石のバルバトスも恥ずかしくなってくる。

「いや、これで十分だよ。ありがとう」

早く終わらせたくなり、バルバトスは誘導した。

「そんなことないと思うけど。さっき持ってみたらかなり重かったし、しっかり押さえつけられた方がいいんじゃないか。こんな感じで」

ソロモンは首の紐を掴んで後ろに引っ張る。それに引っ張られて胸も持ち上げられた。

確かに楽にはなるが、素でこんなことをやってのけるなんて恐ろしい。どこかできちんと教育する必要があるかもしれない。

「ああ、うん。楽になった」
「良かった。じゃあ、この位置で固定するよ。あと、余ったとこ潰すためにマチ針で止めるから、危ないからじっとしてくれ」
「はーい」

紐を結び直すと、ソロモンは余った布をマチ針で止めて詰めていく。あらかた止め終えたあと、ソロモンは暫定ブラジャーを脱がせ、再び作業に戻っていった。

上半身裸のままで、バルバトスはその作業を眺めた。詰めるために余った布を内側に入れず、外側になるよう縫っている。着心地が良くなるようにとの心遣いだろう。

暫定ブラジャーがブラジャーになるまで繰り返したころには、バルバトスはすっかり触られることに慣れてしまっていた。

最後の調整だろう。ソロモンは胸をブラジャーの中に寄せるように入れ、形を整えている。触る頻度は今までより高かった。

そして、満足した表情を浮かべた後、急にソロモンの顔が赤く染まっていった。

「あと少しだろう? どうしたんだい?」
「急に悪いことをしてる気がしてきた」

完成間近で、自分が何をしていたか急に理解したようだ。視線を外し、声は力なく小さくなっていく。

その様子を見て、バルバトスは自分が意地の悪い笑みを抑えることができなくなっていくのを感じた。

「今更か。君くらいの歳の子がよくやるなとは思ってたけど、無意識だったとはね」

ソロモンはその言葉に応えず、背を向けて作業を続ける。仕上がると、今までとは違って後ろ手でブラジャーを渡してきた。

「できた、から、着けてみてくれ」
「さっきみたいに着けてはくれないんだ?」
「着方はもうわかるだろ」
「まぁね。ふふ、若いなぁ。……。着たよ」

からかうのは程々に、バルバトスはブラジャーを着けた。最初に比べれば、着ることによって随分体が楽になっている。

バルバトスの声に反応してソロモンは振り返った。その表情はすでに職人のものであり、あまり面白い表情ではない。

「着け心地はどうかな?」
「胸の下が少し物足りないかな」
「それだったら、もう少し強めに縛ったらどうだ」

指示されるままソロモンに背を向け、調整をソロモンに任せる。

「どうかな?」
「うーん、ここをもう少し詰めてほしいかな」
「どこ?」

覗き込まないと見えない、胸の谷間の下の位置を少し摘む。

確認するために覗き込んできたソロモンは、動揺で少し変な声を漏らした。

「これくらいで大丈夫か?」
「ん。他に気になるところはないよ」

震える声で応えたソロモンは、それでも仕事はこなし、バルバトスが摘んだ分だけ、布をマチ針で止めた。

もう他に気になるところは無いため、バルバトスは慣れた手つきでブラジャーを脱いだ。その直後、ソロモンの体が急に離れていく。

「別の所を向くまで待っててくれよ!」
「ええ……、さっきまで散々見てたし、触っていただろ?」
「それどころじゃなかったんだよ……」

確かにそうだろう。ソロモンは服を作ることに完全に集中しており、女体まで意識は向いていないようだった。

再び背中を向けたソロモンに、バルバトスはブラジャーを渡す。

焦って針で指を刺すらしくない姿を見ているうちに、バルバトスの中でむくむくとイタズラ心が湧いてきた。

ソロモンに近寄り、わざとゆっくり背中へ体を密着させた。ソロモンの背に押し付けられた胸はその形を柔らかに変えていく。心臓の音すら伝わるようなその距離に、ソロモンは何を思っているのだろうか。

「終わったらも揉むかい?」

心の奥底をくすぐるように、バルバトスは甘く囁いた。

「揉まない! 危ないから離れてくれ」
「はいはい」

たまらずソロモンは叫んだ。あまりしつこくやると本気で怒られそうなため、バルバトスは素直にソロモンから離れる。

一般的な感性は持っているらしいソロモンにバルバトスは安堵しながら、彼が落ち着くまでからかわずに待ち続けた。