運命の人 sideB

ソロ←バルです。
私が! 書きたいものを! 書くんだ! の精神で好き勝手書いています。

ヴァイガルドに平和が戻った後、バルバトスは再び吟遊詩人としての一人旅に戻った。有事に備えて、ソロモンだった男の位置は常に把握するようにはしていたが、それを除けば以前の生活となんら変わりない。活気が戻ってくるヴァイガルドの美しさに頰を緩める毎日だ。

そして、バルバトスは久しぶりにソロモンだった男の住んでいる村の、隣町に訪れていた。

人気のある『ソロモン王とメギド』の話を臨場感たっぷりに語れるバルバトスは各地で人気で、いつも人が集まる。この町も例外ではなかった。

そして、翌日の昼には必ず、2人の小さなお客が直接訪ねてくるのだ。バルバトスは町外れのいつもの場所で、大きな石に座り、その2人を待つ。

「ロビンさん」

控えめな声がバルバトスを偽名で呼ぶ。その声の持ち主は首元から足先まできっちり肌を隠した服を着て、同じような格好の妹の手を握っていた。

兄の方は10歳と少しくらいで、妹の方はまだ10歳にも満たない。

「いらっしゃい。待っていたよ。さあ、今回はどんな話をしようかな」

バルバトスは自分の隣へ座るよう兄妹に促し、まだ聴かせたことのない話を語り始める。

話がひと段落つき、夢心地のままの兄妹にバルバトスはウィンクした。

「さて、ちょっと休憩を入れよう。最近、ご家族はどうかな?」

兄は静かに自分と親は変わらず健康であることを話し、妹は自分は元気だと主張する。バルバトスはそれを一つひとつ大切に受け取った。

「あと、父さんのお友達が来ました。『ソロモン王とメギド』に出てくる、モラクスってメギドと同じ名前のヴィータの。歳はおれとあまり変わらないくらいです」

兄が思い出しながら言う。妹は兄に構ってもらいながら、モラクスと遊んでもらったと楽しそうに話していた。

「もしかしたら、本人かもしれないね。あの後、ソロモン王のメギドたちにあやかって名前をつけられたヴィータが沢山いるから可能性は低いけど。ありえる話だとは思うよ」
「本人だったらもう一回会いたいです」
「会えるさ、きっと」

それからしばらく取り留めのない話を続け、兄妹に頼まれた『ソロモン王とメギド』の1節を話し終えたあたりで、兄妹が帰らなければならない時間がやってきた。兄はぐずる妹をなだめていたが、本人も帰りたくはないようで、あまりやる気は見えない。

「いつもごめんね。俺の都合で返ってもらってしまって」
「ロビンさんは人気だから仕方ないです」
「ありがとう。今回も君のご家族には」
「分かってます。内緒ですよね」
「本当に助かるよ。ありがとう」

兄と約束し、バルバトスは妹ととも約束を交わした。妹は秘密を持つということがとても楽しいらしく、キラキラと瞳を輝かせながら黙っていると宣言する。

そのやりとりが終わるのを待っていた兄は、じっとバルバトスを見つめながら問いかけた。

「ねぇ、ロビンさん。実は、モラクスさん以外にも、『ソロモン王とメギド』の『始めの物語』で出てきたメギドと同じ名前のヴィータに会ってるんです。ガープとバルバトス以外は全員です」

兄はバルバトスを見つめる。

「ガープは単純に来てくれないだけみたいでしたけど、バルバトスは見つからないんだそうです。父さんが言ってました」

声変わりが始まり、かすれかかった兄の声は聞き覚えのあるものに近かった。

兄は妹の耳を塞ぐ。

「おれは、おれに流れる血の秘密を年の始めに聞きました。ロビンさん、あなたは何か知ってるんじゃないですか」

バルバトスは兄の視線から逃げた。誤魔化し続けたツケを払うときが来たのかもしれない。

「君の想像するとおりだよ。俺の本当の名前はバルバトス。仕事がしづらいから偽名を使ってたんだ。……あと、バルバトスとして会うのはもう少し後にさせてくれ。色々、会いづらい理由があるんだ」

それはバルバトスの個人的な感情が原因である。より強い縁に惹かれていたその背を笑顔で押したとは言え、一時期、情を交わした相手だ。他の人のものになったとあっては、顔を合わせづらい。

そうしていると、突然兄の表情が驚きで染められていた。その視線はバルバトスの後ろへ向けられている。妹はそんな兄から離れ、バルバトスの後ろへと走っていった。

バルバトスが反応する前に腕が捕まえられる。振り返ると、1番会いたくない存在がそこにいた。そうにも関わらず、胸に溢れてくる愛おしい感情をバルバトスはよく知っている。

「ようやく見つけた。もう一度、ちゃんと話そう」
「ああ、ソロモン」

名前を呼ぶだけで幸せになれるのはいつ以来のことだろうか。