アクセサリー
パイモンの入れ知恵シリーズ第1弾です。
まだ付き合っていないソロバル。
「気になる相手を連れて行くといい」とパイモンに渡されたリストの中にあった店に、ソロモンはバルバトスを連れてきた。王都の隅にあるアンティーク雑貨店で、最近は手作りのアクセサリーが人気らしい。店の説明を聞いた時にバルバトスを連想し、迷ったものの、言い訳を連ねて連れてきたのだった。その言い訳で出した用事も、先ほど済ませてきたのであながち嘘では無い。
「へぇ、雰囲気のいい店だね」
後から入ってきたバルバトスが店内を眺めながら言う。
「本当だな。置いてある物の一つひとつが綺麗だ」
「教えてくれたのはパイモンだっけ? ほとんど王都にいないのに、よく知ってるな」
バルバトスは店内を見回していた。気に入ってくれただろうか。好みじゃないところに連れてきたのではないかと、少しだけ不安になる。
バルバトスは品物の一つである木の人形に目を留めていた。様々な角度から観察している。よほど気に入ったのだろう。
パタンと軽い音がして、ソロモンはその方向を見た。閉じられた本を持った、店主と思われる女性が、ニヤリと笑いながらバルバトスを見ている。だらしないのに清潔感がある格好という、少し変わった見た目の人だった。
「おにーさん、それ気に入った? いいモンなのになかなか人気が無くてね、まけとくよ」
「これが人気無いとは、驚いたね。話を聞かせてもらっていいかな?」
カウンターに座っている店主に、バルバトスは楽しそうに近づいた。ソロモンはその背を見送って、他に視線をやる。いつものことだ。長くなるだろう。
楽しそうな会話をBGMに、ソロモンは手持ち無沙汰になりながら店内を回った。木造の雑貨がメインで、可愛らしい物もあれば、触ると呪われそうな物もあり、かなり異質な品揃えである。
散々回った後、ソロモンはようやくアクセサリーコーナーの前へ立った。店の目立つところにあるそれは、一目で売れ筋だとわかるディスプレイになっている。少し悩んでから、ソロモンは気になったペンダントを手に取った。小さな石を糸で繋ぎ合せたそれは光を反射してキラキラ光り、素朴な優しさを感じる。
ソロモンはふとパイモンの言葉を思い出した。上手く店に連れ込んだ後は、その相手と相談しながら選んだアクセサリーをプレゼントしろ、と。一生懸命選んだ物なら喜んでくれるし、一緒に選べばハズレが無い。
ソロモンは深呼吸をした。
色々悩んだ後、ソロモンはアクセサリーを一つ選んだ。
バルバトスのナンパが終わり、ソロモンもこっそりアクセサリーを購入した後、店を出てブラブラと歩く。並んで歩くバルバトスは晴れやかな表情だった。
「いやあ、いい話が聞けたよ。あれは人気の悲恋をイメージした人形でね。かなり凝って作られていた逸品だったから、ついつい話が長くなってしまったよ。そうだな、今度時間があるときにその話してあげよう」
「えぇ……、恋の話はいいよ」
「何を言ってるんだ。1度は聴く価値のある話だよ」
1歩進むごとに、ポケットの中にあるアクセサリーがその存在を主張していた。バルバトスのためにそのアクセサリーを買ったのだから、渡さないといけないのに勇気が出ない。
「恋の話になるといつもからかうじゃないか。それより冒険譚とかの方がいいよ」
「冒険譚もいいけど、俺としてはいい話は何でも聴いてほしいんだよな」
そろそろ帰らなければならない時間だ。紅く染まった空がそうだと教えてくれる。
足を止めてソロモンはポケットに手を突っ込んだ。アクセサリーを出し、振り返ったバルバトスにそれを見せる。アクセサリーは羽の飾りがついたピアスだった。小さく主張は薄いが、揺れると、一緒に付いた石が光を反射して綺麗だ。
「さっきの店で。似合うと思って。……人気なんだって」
ソロモンの声はだんだん窄んでいく。上手く説明できなくて、自信はどんどん削がれていった。
始めは驚いた表情を見せたバルバトスだったが、柔らかに微笑むと、そっとピアスを受け取った。そのまま耳に添え、ソロモンに見せる。夕焼け色に染まったその姿は、ソロモンの目を引きつけてやまなかった。
「ありがとう。似合うかな?」
「……すごく」
「良かった。今度付けてみるよ、まだ穴を空けていないから」
「えっ、そうなのか?」
近寄り、バルバトスの耳たぶを見る。バルバトスの言うとおり穴は無かった。華やかな印象のある彼だから、勝手に穴は空いている物だと認識していたが、どうやら思い込みだったらしい。
「ごめん、別のを買ってくるよ……」
着けれない物を押し付けてしまうのは意味がない。
バルバトスは適切な距離を開け、回収しようと伸ばしたソロモンの手を避けると、ピアスをカバンの中に収めた。
「いいや、これがいい。沢山のアクセサリーの中から、これが俺に1番似合うと思って買ってくれたんだろう?」
諦めてソロモンは素直に頷く。
バルバトスは包み込むような笑顔をソロモンに向けてきた。
「ありがとう、嬉しいよ。ただ、次は女の子にやるといい。これでときめかない女の子はなかなかいないだろうからね」
それはしないとソロモンは言いそうになったが、寸でのところで止めた。言ってしまえば追及されるだろう。そうなれば上手く返す自信は無い。
そろそろ帰ろうか、と話をしながら、ソロモンはバルバトスと並んで歩いた。