恋して思い焦がれて2
恋して思い焦がれて1の続きです。モンモンは高校生で、バルバルは大学生です。
前のは読まなくて大丈夫です。
友人から「セフレのセックスが酷い」と言う愚痴をひとしきり聞いたソロモンは、帰り道で、もし機会があれば、自分は優しくしようと心に決めた。とは言うものの、そんな機会はなさそうだが。
高校生になっても、相手が社会人になろうとしても、実感すると同時に散った初恋はソロモンにこびりついていた。叶うはずないと感じているが、物理的に距離でも取らないと諦めきれそうにはない。
その週の休日、ソロモンは恋の相手、バルバトスに急に呼び出された。
「呼び出した方の俺が言うのもなんだけど、よく来れたね?」
「……本当に、バルバトスが言うなって内容だな」
軽口を叩きながら、ソロモンはバルバトスについていった。バルバトスの家の前から、繁華街へと移動していく。着いた場所は、カラオケだった。予約済みなのか、スムーズに案内される。
部屋へ通されたソロモンを待っていたのは、ただひたすらバルバトスの歌を聴き続ける時間だった。
「今日は俺の奢りだから、好きに頼んでいいよ」
バルバトスの歌を聴き続けるのは苦ではないが、手持ち無沙汰ではあったので、ソロモンはバルバトスの言葉をありがたく受け取り、サイドメニューを次々と頼んだ。食べても食べても足りないのでありがたい。
そのうち、ソロモンは小さな違和感を覚えた。バルバトスに連れられてカラオケに来る機会は多くあるが、今日のように怒鳴るような大声で歌うことは見たことがない。その違和感の糸を手繰り寄せるように、ソロモンは隙を見て声をかけた。
「何かあったのか?」
「ん? 何もないよ」
「でも、バルバトスが喉を痛めるような歌い方するなんておかしいよ。何かあったんだろ?」
バルバトスは困ったように笑うと、ソファに身を沈めた。口元は微笑みを残したままだったが、瞳には陰りが見える。
「よく見てるなぁ。…………フラれちゃった」
「それじゃないんじゃないか?」
「えっ」
「失恋のときは、自棄になるんじゃなくて、落ち込むじゃないか」
何度も側で見てきたからわかる。バルバトスはいつも恋人のことをとても愛していて、フラれるたび、酷く落ち込んでいた。けして、今日のように自傷するような行為はしない。
バルバトスはしばらく黙った。ディスプレイに流れるCMと、隣室の歌声だけが部屋に響く。
しばらくして、バルバトスは口を開いた。
「夢を反対されたんだ」
「歌手になるっていう夢?」
「そう」
歌手になりたいと、バルバトスが言っていたのを何度も聞いたことがある。どうせ反対されるからと、ソロモンにだけそのことを教えていることも。
「諦めるのか?」
答えを知った上でソロモンは訊く。
「まさか。家を出てでも、夢は叶えに行くよ。そのためにお金も貯めたしね」
詰められるだけバイトを詰めていたのはそのためか、とソロモンは納得する。また、恋人にフラれた理由も納得した。近所に住んでいるソロモンすら、朝に挨拶するのがせいぜいだったのだ。滅多に会えないのであれば、気持ちが離れるのも仕方ない。
「でも、フラれたのも本当だよ。だから、相乗効果で荒れてしまったんだね」
「そっか。それにしても、バルバトスをフルなんてわかんないな。俺だったら絶対にしない」
「ふふ、ありがとう」
「本心だぞ?」
「うん、うん。わかってる」
軽い調子でバルバトスに流されたが、いつものことだった。
その後、バルバトスは落ち着きを取り戻し、いつものように綺麗な声で歌い始めた。ソロモンはその歌声に耳を傾ける。とても心を揺さぶられる声だ。
バルバトスの話に触発されて、ソロモンは未来の想像を始めた。生活圏が変わり、いつかは離れなければならない。そして、それは遠い日ではない。
良いじゃないか。そうソロモンは考えた。問答無用で離れられれば、完全に諦められるだろう。そう理解していると言うのに、気づけばソロモンはバルバトスの腕を掴んでいた。
「バルバトス、好きだ。その、恋人として付き合ってほしい」
「ソロモン……」
ソロモンはバルバトスの腕を放し、俯いた。勢いで行動したものの、断られるのが怖い。
「傷心のところにつけ込むなんて、ズルいね」
「そ、そんなつもりじゃ」
「わかってる。キミはそんなことしないよね。……ちょっと時間をくれないか」
顔を上げ、ソロモンはバルバトスの瞳とぶつかった。自分の告白を真剣に捉えてくれると理解して、心が浮つき始める。
だって、バルバトスは女の子が好きで、恋人もずっと女の子ばかりだった。男である自分が恋人に選ばれる可能性があるなんて思いもしなかった、とソロモンは歓喜で泣きそうになる。
「キミが嫌ってわけじゃないんだ。だけど、キミをそう言う対象として見たことがないから、心を整理させてほしい」
「待つ。待つよ」
食い気味にソロモンは返す。
何故か照れ気味に顔を背けるバルバトスを、ソロモンは追った。