油断した貴方が悪い
酔っ払ったバルバトスに、こっそりイタズラするソロモンのソロバルです。付き合っていない。
手入れの行き届いた髪が右の頰をくすぐった。酔って体温が高いせいか、距離が近いせいか、普段は微かに香る程度の香水の匂いが強く漂ってくる。
いつものアジトでの小宴会で、バルバトスは珍しく泥酔に近い良い方をしていた。大人しい酔いかたをするタイプであるのが幸いして、害はほぼ無い。そのため、絡まれているソロモンごと放置されていた。
バルバトスはソロモンにもたれかかり、頭を肩に置いて上機嫌に自分のレパートリーを語っている。所々重要な箇所が抜けている物語を語り終えるたび、「こういう話は好きだろう?」とソロモンに確認してくる。ソロモンはその度に感想を伝えていた。
しかし、物語の大部分はソロモンの頭に入ってきていない。
それどころではないからと諦めているが、想いを秘めた相手にくっつかれて平静でいられるほどソロモンは人ができていなかった。心臓は早く脈打ち、体の芯に熱が溜まっていく。時折、「熱いだろう」と頰を叩かれるたび、キスされるのではないのだろうかという妄想が頭を過ってしまい、冷静ではいられない。
ソロモンの太ももにバルバトスの右手が置かれた。その場所がジンジンと熱くなっていく。
イタズラしてしまっても良いのではないだろうか?
油断しきっているのが悪いと自分を正当化し、ソロモンは辺りを伺った。幸いなことに、2人に興味を持っている人はいない。
ソロモンは緊張しながら、太ももに置かれたバルバトスの右手首を左手で掴んだ。不思議そうにその様子を見ているバルバトスの視線を無視し、仰向けにした自分の右手にバルバトスの右手を重ねる。そのまま、指と指を絡ませて手を繋いだ。
恋人のようだと満足しながら、ソロモンはバルバトスと手を握り続けた。緊張で手汗が出てくるのが情けないが、できることならバルバトスが嫌がるまで続けたい。
嫌がらないのをいいことに、ソロモンはバルバトスの足に自分の足を絡ませた。足の甲で足首辺りを押してじゃれる。バルバトスはくつくつと笑っていた。
「ソロモン」
顔を起こし、とろりと溶けた目でバルバトスがソロモンを見てきた。叱られるか、とソロモンの背筋が凍る。
ソロモンの心配をよそに、バルバトスは締まりのない笑顔を見せた。
「キミ、可愛いなぁ。そういうところが好きだよ」
飾りのないストレートな言葉に、ソロモンは心臓が止まりそうなほどの衝撃を受ける。
バルバトスが好きなのは自分の行動のことを指していて、自分自身ではない。ソロモンはそうやって己を説得して、心を落ち着かせる。
「そういうところって、どういうところだよ」
「んー、ん? ま、全部でいいよ」
まだ相当酔いが回っているらしい。バルバトスは思考を放棄していた。
ソロモンはカラカラになった口内の唾をかき集めて呑み込み、手を強く握った。
「俺はバルバトスのことが、好きだよ」
バルバトスは瞠目した。
「急だね」
「先に言い出したのはバルバトスだろ」
「そうだね。そうだった。んー、気分がいいな」
バルバトスは再びソロモンにもたれかかってきた。そのまま、気持ち良さそうに寝始める。
緊張が解け、ソロモンの体から一気に力が抜けていった。
その後、ソロモンはバルバトスを自分の部屋に連れて行き、ベッドに寝かせた。バルバトスの部屋に運びたかったのだが、鍵が見つからないならば仕方がない。自身は床で寝ればいいだろうと判断する。
忘れ物を取りに戻ったとき、ソロモンはブネに話しかけられた。
「酔っ払いの面倒、大変だったな」
「ああ。まだ大人しい方だから良かったけど」
「そうだな。大変なのは明日だ」
「明日?」
「おう。どんだけ酔っても意識は残ってるって言ってたからな。アイツの性格じゃあ、無様な姿を見せたって転げ回るだろうさ」
「意識、が、残って……」
ソロモンの血の気が引いた。手を握ったり、好きだと伝えたりしたのは、どうせ覚えていないだろうという考えを元にやっていたことだ。
「どうした? ソロモン」
「あ、いや、なんでもないよ! 酒はほどほどにな! お休み」
追求を恐れ、ソロモンはその場から逃げた。かと言って、部屋に戻る気にはなれない。
明日はどう説明しようか、考えても考えても、良い案は浮かばなかった。