物語

 惚れたと言うよりも気づいたと言う方が正しい。バルバトスがソロモンの側に居ようと再び決めた後、どうしようもなくソロモンを愛おしく感じたのだった。今まで通り「健やかに育ってほしい」と思うと同時に、「独り占めしたい」と強く思う。
 しかし、仲間と楽しそうに会話するソロモンを見ると、独占欲は失せるのだった。独り占めをしてあの笑顔が消えるのはもったいない。その代わりに、バルバトスは微笑みとともにソロモンの側へ寄るのだった。
「やあ、ソロモン、付き合ってほしいことがあるんだけど、時間を貰っていいかい?」
「ん? ああ、いいぞ」
 稀な休みの日だと言うのに動き回るソロモンをバルバトスは捕まえた。顔には疲労の色が見え始めている。若いとは言え、休まないと後に響くだろう。
 バルバトスはソロモンへ何か食べ物と飲み物を持って屋上へ行くよう指示した後、椅子とリュートを持って自身も屋上へ向かった。屋上に着くとソロモンは自分で持ってきたと思われる椅子に座り、既に飲食を開始している。
 ソロモンを呼び出した口実は、作りかけの詩の出来を確認してほしいということだった。客観的な意見がほしいという理由である。バルバトスの話を聴くのはソロモンも楽しいそうだから、良い休憩になるだろう。
 バルバトスはソロモンへ声をかけたあと、弾き語りを始めた。
 始めは発声練習として聞き馴染みのある歌をいくつか歌い、そして、本題へと移った。
 詩はソロモンとメギドたちの冒険を語った詩で、まさに今、更新され続けている話である。それに気づいたソロモンは照れで表情を変えていった。それをバルバトスは微笑ましく見守る。
「どうだったかい?」
 一通り終わってからバルバトスは訊く。
「い、いいんじゃないかな? でも、もう少しバルバトスを目立たせてもいいと思う」
「キミが目立つのは不満かい?」
「そうじゃないけど、……恥ずかしいじゃないか」
「ふふ、まだまだ青いな、キミは。これはキミの詩なんだ。大袈裟なくらい飾り立てておくぐらいで丁度いいのさ」
 これは物語なのだから、どれだけ煌びやかに盛り立てても、嘘でなければ問題はない。それがバルバトスの持論である。
「それでもさ、実物よりかっこよすぎだろ……」
 困ったようにソロモンは言う。
 バルバトスは徐にソロモンの頭を撫でた。その反応で向けられる目線をしっかり受け止め、相手の瞳へ刻み込むように微笑む。
「多少は盛ってるけどね、俺は観たことしか残していないよ」
 手を離してバルバトスは再び歌い始める。
 見る限り、ソロモンには時間が必要そうだ。