『 』
パイモンの入れ知恵シリーズはひとまず終了です。以降は時系列がバラバラの話となります。
バルバトスはソロモンから貰ったイヤリングを付けようとして、手が止まった。「好いた相手だから贈った物」ということを知ってしまったため、その気もないかのに付けるのはどうも不誠実のように感じられるのだ。
しばらく悩んだ後に、バルバトスはイヤリングをジュエリーボックスへ戻した。空のジュエリーボックスにイヤリングが二つだけ置かれる。
バルバトスはアジトの自室を出てホールへ向かった。今の時間なら誰かが酒盛りをしているだろう。今後の身の振り方を決められずモヤモヤした頭は、1度馬鹿騒ぎをして洗い流した方が良い案が出るに違いない。
そう考えていると、風呂に入った後らしきソロモンと廊下でばったりと会った。
「今からホールか?」
「あ、ああ、うん。ちょっと飲みたくなったからね」
いつも通りの対応をするソロモンに対してバルバトスはかなり動揺してしまった。先程まで悩んでいたから仕方ないと自分を励ますバルバトスだったが、それはそうとして、挙動不審なバルバトスの態度に戸惑うソロモンの視線が痛い。
「そ、そうか。あまり飲み過ぎるなよ」
ソロモンの視線がバルバトスの耳に移り、すぐにバルバトスの顔へ戻る。
バルバトスは無意識のうちに右手で耳たぶを隠した。
「ああ、ほどほどにするよ」
「そっか。じゃあ、お休み。部屋は鍵をかけておくから」
「ああ」
部屋へ戻るソロモンを見送り、バルバトスは頭を抱えた。バルバトスのために部屋の鍵を開けておくという習慣ができるほどに、バルバトスがソロモンの部屋を訪れているという現実を眼前に突きつけられたのだ。これも良くない。気も無いのに期待を持たせるようなことは不誠実だろう。
その日、バルバトスはどれだけ飲んでも酔った気がしなかった。
それからしばらくの間、バルバトスはアジトへ帰っても何かと理由を付けてソロモンの部屋へ行くのを避け続けた。寂しそうな顔を見るたび心が痛むが、気持ちの整理をつけられないまま向き合うことはできない。しばらくして、ソロモンはバルバトスを誘わなくなり、部屋はいつも鍵がかけられるようになっていた。
それでも、習慣でソロモンの部屋のドアノブに手をかけてしまい、バルバトスは自問自答する。言葉にできない感情を並べ、観察し、意味を読み解く。
バルバトスはそっと手を離して自室へと戻った。
とある日のメギドの塔の探索後、話があると言ってバルバトスはソロモンに空き部屋へと連れられた。視線を背中に感じるものの、すぐにいなくなる。バルバトスは苦笑した。
空き部屋に入ってすぐ、ソロモンはバルバトスにアクセサリーを見せてきた。
「バルバトスに似合いそうだと思って作ったんだ、イヤーカフを。……貰ってくれないか」
そう言って差し出すソロモンの手は僅かに震えていた。
バルバトスはイヤーカフを受け取らずに首を振る。
「貰うことはできないよ」
「そう…か……」
「そうだ。これが友愛や感謝の物なら受け取れる。だけど、俺の予想じゃ違うと思うんだ。どうかな?」
きっとここが正念場だろう。曖昧なまま引き伸ばしてしまえば、不幸が生まれる。
長い沈黙の後、ソロモンは口を開いた。
「…………バルバトスの言う通りだ。これは感謝とかそう言うのじゃなくて、俺が、バルバトスを好きだから、何かしたくて用意したんだ」
ソロモンは目を伏せた。声がさらに硬くなる。
「ごめん。迷惑だよな。これは持って帰るし、前に渡したイヤリングも捨ててくれ。もうしないよ」
そう言うと、ソロモンはもう1度謝ってからその場を去ろうとした。それを予想していたバルバトスはソロモンの手首を掴んで引き止める。振り返った表情はとても困惑していた。
「迷惑じゃないよ。何もはっきりしないままぬるま湯につかる関係を続けるのが良くないだけだ」
この場から離れようとする意思の無くなった体を向き合わせ、両手を握る。そのままバルバトスはゆっくりソロモンと視線を合わせた。
「俺の恋人にならないかい? 最優先事項も同じで、キミにとっても悪くない相手だと思うんだけど」
何日もかけてバルバトスが整理した結果がこれだ。ソロモンから向けられた好意を不快だと思わなかった。むしろ心地よく、関係がはっきりとすればずっと受け続けていたいと思ったほどだ。下手な相手に捕まって身を崩されるよりも自分が、と言った打算も無いわけではないが、嬉しいという気持ちの方が大きい。
固まっているソロモンを戻すため、バルバトスは掴んだソロモンの手に唇を落とす。
「キミの個人の部分を俺のものにさせてほしい」
しばらく間を置いてから頷いたのを確認し、バルバトスは柔らかく触れるだけのキスをした。